もっと本品堂

浅草の型染め工房「本品堂(ポンピン堂)」の文様について

文様について

文様とは何か? 文様とは、自然の造形や日常の文物をもとにして「図案化」したものです。そこには、生活をしている人々が見ている視点や、大切にしている物事が映し出されています。 国や民族や地域や宗教といった枠組みにそれぞれ固有の文様があり、日本では特に数多くの伝統的な文様が残されています。本品堂はそんな日本伝統の文様を伝える継承者として、また文様に新たな価値を見出し発展させていく現代のクリエイターとして、文様を使ったアイテムを生み出しています。 文様はそれぞれに意味を持ち、奥深い背景を秘めています。しかし同時に文様は、その見た目だけでも、粋で、素敵で、ユニークで、楽しくなるものです。 まずは「かわいい」「この絵柄が好き」という気持ちだけでもOK。「生活の中に文様がある楽しさ」に触れてみてください。     文様って何がいいの?「グラフィックとしての洗練と長い時間の中で込められた物語」 伝統文様ははじめから伝統だったわけではなく、長い歴史の中で残ってきたものがこの時代に伝統文様と呼ばれています。古くは鎌倉時代にまで遡れるものもあり、江戸期には文様が象徴的かつ単純化し、デザインが磨かれ、洗練されていきました。 文様には様々な意味や願いが込められています。たとえば「千鳥」は目標達成や勝運祈願、「七宝」には平和・円満、子孫繁栄という意味があり、かつての人々は文様が示す意味を知りつつその身にまとっていました。文様はこのように、デザインの面と、そのデザインが意味するもののふたつが大きな魅力です。これらは長い時間の積み重ねで育まれてきたものです。ただし、伝統文様といっても規格が決まっているわけではありません。本品堂では文様を現代で愛されるグラフィックにするべく、残ってきた伝統文様そのままではなく、本品堂が翻案・リデザインしています。なぜなら、古典であることそのものに文様の価値があるのではないと考えているからです。日本は往々にしてハイコンテクストな社会と言われているように、わかる人にはわかる、そうでない人には関心を持たれないことが多く存在します。文様もまた、そのモチーフと意味とのつながりが、時代を経ることで簡単に失われてしまうものです。デザインの楽しさや豊かさと、それが意味するもののおもしろさを味わい、人間の生活と関わりあっていく。それこそが文様が持つ価値だと思っています。 意匠や意味を過去から引き継ぎつつ、現代の人に魅力を感じてもらえるように翻案するのが、本品堂の仕事です。

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浅草の型染め工房「本品堂(ポンピン堂)」の型染め風景とデザインについて

デザインについて

本品堂のデザインとは 伝統的であり、グラフィカルであり、歴史的である「大人が持ちたいかわいらしさ」   デザインをする上で大野が考えているのは、機械には引けない「丸みのある線」、人が作った「手の温度が伝わる線」で形を作ることです。大野が好きな美術作品からの影響や、そもそもかつて文様の図案がそのような手仕事で作られてきたことへの敬意が背景にあります。安易に古典をトレースすることはせず、形や線ひとつ作るのにも「この文様の本質とは?」「どうすれば文様の魅力を感じてもらえるか?」と大いに悩みながら作り上げます。 写実から図案になる表現の飛躍に関心がある、と大野は言います。たとえば、燕を燕たらしめているものはなんだろう? 雀とはどう違うんだろうと考える。遠くから見たら同じ「鳥」ですが近くからだとまるで違う形をしてることがわかります。 あるいは菖蒲。実際はもっと複雑な形の花弁ですが、それを十字で表すというクリエイティブな跳躍をさせる。これは群としての菖蒲の形を限界まで単純化したものといえます。 このようにミクロとマクロの視点を組み合わせながら、対象の本質を選び取るようにデザインをし、かわいらしくも漫画やキャラクターにならないギリギリの「デフォルメ」を目指しています。 そこに文様の意味が乗ることで、伝統的であり、グラフィカルであり、歴史的な意味が込められていて……という幾層ものレイヤーが重なった、本品堂らしい「大人が持ちたいかわいらしさ」があるアイテムが誕生します。 そして、最も大切にしているのは次の点です。   そういうものを、日常で使うということ   文様は「古いものだから良い」のではありません。またわたしたちは「途絶えてしまいそうだから守っている」のでもありません。文様は現代でもなお、そのデザインや意味するものが素敵であることが良いのです。たとえば、日常の持ち物で好きな色や好きな形、好きな素材があるように「好きな文様」もありうると思っています。本品堂のアイテムは、そうして日々使ってもらうためにあります。 本品堂の「守袋」をデザインを気に入ってくれる人もいれば、文様の意味を含めて持ち歩きたいと使う人もいます。「ハンケチ」も同様です。 デザインでも意味でも構わないので、自分にとって心地よくなるもの、気分をプラスに変えるものとして文様を日常で使ってほしい。色や形や素材のように、好きな文様を探して選んでほしい。それが文様に携わるわたしたちの願いです。

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本品堂 ポンピン堂 ハンケチ ハンカチ テキスタイル

ハンケチについて

今回、現在進行している世の中のことが原因で、いくつかのイベントや仕事がキャンセルになった。そこで、商品を見つめ直す時間をとることにした。  ポンピン堂のハンケチという製品群は、実は古くからありリピーターが非常に多い商品の一つ。何かの折に少しずつ買い足してくださる方が多く、具体的な統計を出した訳ではなかったが、よくよく調べてみると販売内容はご自宅用とギフトがほぼ半分半分。  ご感想などのコメントを掘り起こしてみると「絵柄がかわいいから差し上げたらとても喜ばれて自分用も買うことにした」「自分で使ってみたらとても使いごごちが良いので人にも上げたい」とお客様が異口同音におっしゃっておられる。  ああ、そうだ。わたし、そんな風に思いながら作り始めたんだっけ。ーと、はっと思い出した。  11年前に自分が欲しくなるハンケチの企画を始めた頃のことを思い出し、順を追って書いてある。いつもは相方の「大野」が取材等で答えることが多いところを、もう一方の「工藤」視点で書いた。少し長いですが、どうぞご覧ください。     いつもハンカチを探していた。      自分で使うものも、人に差し上げるものも。特に人に差し上げることが多いハンカチ。   ハンカチをプレゼントするって 「これなら使ってもらえるし…無難だよね」と考えてしまうわたし。でも人に差し上げるのに、無難って何か…  食べ物だったら、一度食べてみて美味しかったらお土産にする。道具もお洋服も、使ってみて良かったら人に勧める。であるのに、ハンカチにそういう感じっていうのはない。     お出かけの際も、お気に入りの一枚を一緒に連れだして    一方でハンカチは気軽な消耗品なんだよ。と思っても、みる。何となく自分の中で「金額」「実用性」「ブランド」の三角形のバランス図を作り「これでいっか…」でもそんな感覚が、うっすらと相手にすまないような。  本当は「これとてもかわいくて使い勝手がいいんだよ」と言いたいのに。いや、そんな主張をしないまでも、ハンカチぐらい何かのお礼に、さらっと気軽に差し上げたいのに。そういうのがないなと。  つまり自分でもデザインも使い心地も自分で気に入って使っているものが、極端に少ないと感じていた。毎日使うものなのに。     フォーマルにも合わせらせる上質感だけど、コットンだからお手入れも簡単    だったら「作ってみようか?!だってうち布屋だし」  という発想に至ったのが出発点。自分も使いたい!人にも差し上げたい!というものを作ろうじゃないの。発想に至ったものの、実現するまでは長い長い企画との闘いとなった。  はじめはわたしは、デザイン2案、使用する生地は1種類だけを考えていた。大野に絵をお願いしたところ、うんうんと長い間、脂汗をかいて悩みながら、なんと突如10柄ぐらい上がってきた。  デザインってPCでさらさら描きそうに思われますが、大野の場合はぜーんぶ手描き。まる粒一つ。直線一本。羽一枚。どれをとってもすべて手描きの原稿があります。作業を横でじっと見てるとたまに苦しくなる。本人は描き進んでいるときはとっても楽しいみたいだが。    まずは思いつくアイデアの種を片っ端から描き出した後、形になりそうなものを選び、推敲を重ねていく    さてたくさんのデザインを上げてきたものの、ここで大量のボツが出るかと思いきやどれも可愛いと思った。けれども「これはやわらかいイメージ」「これは粋なイメージ」「これは・・・」と柄ごとにイメージの違いが多すぎて、生地を選ぶのに難航した。  ぎゅうぎゅうに悩んだある時「生地をイメージに合わせて、それぞれ変えればいいんだ」と突然ひらめいた。そっかー。と途端にソフトランディング。そっかー。生地をそれぞれ変えればいいんだ!  このぎゅうぎゅうと「甲乙つけがたし!」と頭を悩まして選んでいた白生地はもちろん、信頼のおける国産メーカーのものです。この国産の生地の良さというのは、本当に織が丁寧でしっかりとしており「間違いがない」。    サテン生地の美しい光沢。お客様からも、たびたびシルクと間違われるほど上質な生地。    「60番サテン」「80番サテン」「タイプライタークロス」「ビエラ」一番初めはこの4種類が出揃いました。  【サテン】は、シルクのような光沢。実際よくシルクと勘違いされるほど品が良い表情。またふっくらとしていて吸水性もとても良い。ちなみに60番は糸が少し太めで厚手、80番は糸が細いため、少し薄手でさらにしなやか。  【タイプライタークロス】は、昔タイプライターのインクリボンに使用されていたとても丈夫な生地。糸のよりは細かく高密度に織られているため、生地の丈夫さに反してしなやかで手触りも大変良い。表情はマットで、色を乗せてもしっとり落ち着いている。  【ビエラ】もともとはウールの織の一つで、極上の肌触りが特徴の上質な生地。綿を使って同様の質感に織り上げたものがコットンビエラと呼ばれる。ハンカチで使われることはほとんどなく、ナイトウエアなど肌に直接触れる製品に使われる高級生地。手に持つと、しっとりとやさしく包まれるような感触。肌触りが抜群に良い。    捺染(ハンドプリント)工場の様子。上質なものづくりには、優れた職人との信頼関係が欠かせない    ハンドプリントをしてくれるところは、国内有数の、高級シルクスカーフを手掛ける工場に決まっていた。私たちがイメージしている色が正確に出してもらえる。どうしてもそこだけは譲れない。  この工場さんへは、祖父の代から伝わるきものの色帳(見本帳)から色を指定することもよくある。コットンのプリントをお願いするのに、シルクの色帳を出して「この色に」とお願いするのは難しいこと。コットンとシルクでは、そもそも使用する染料が違うので、とても面倒なお願いなのだった…。  またこのハンカチの四方の縫いにもぜひ注目していただきたいのですが、三つ折りで直線に縫っているものではない。ふわっと巻いて、とても細かいジグザグに縫ってある。この細かいジグザグを「千鳥縫い」という。四方がやわらかくまとまる、高級スカーフの縫い方だ。    生地に無理なテンションをかけず優しく縫いこんでいく「千鳥縫い」。生地がつれにくく、上質な生地の質感を活かす縫い方です    ところでこの縫製工場さんは、もともと石巻でやられていて、津波で工場がのまれてしまった。  この時の私たちの衝撃は、言葉では言い表すことは出来ない。だって報道が映す石巻の海岸の映像に、あるはずの工場が無い。  しかしなんとスタッフさんたちは生きておられて、でも皆さんそれぞれ違う避難所に行っていて、連絡が取れたのは半年以上たってからだった…この時ほど胸をなでおろしたことはなかったと思う。  「やっぱりこの工場でお願いしたい!再開してほしい!」そう考えるのは私たちばかりではなく取引先の要望に応えていただく形で、全国から専用中古ミシンを集めて、高台で仕事を再開してくださった。ポンピン堂のハンケチをもう11年以上も。本当に美しく縫製してくださる。    ビエラ生地の「花小紋」をポケットチーフに。フォーマルな装いにも遊び心をこめて    最後に、「ハンケチ」というネーミングについて「ハンカチじゃなくてハンケチ」「何で?」と思われた方もいらっしゃると思う。  実は製作する過程で、常に考えていたこと事。伝統を表現していくポンピン堂があえてハンカチをやる意味だ。  いくら欲しいから作ると言っても、ブランドコンセプトに外れれば販売は難しい。実際、この部分での話し合いがかなり長かったように思う。  しかし結果的に仕上がったサンプルを見渡した時私は、私の染めた着物をイメージした時にこのハンケチなら携行することができる。スーツにも合う。デニムにも合う。幼稚園バッグから出てきても良いというものが出来たと思った。伝統的なところと現代的なところ、また未来へうまくリンクできるのでは、と強く感じることができた。    女性なら首元に巻いてネッカチーフとしても。襟元の日焼け隠しや、さりげないアクセントに。    でも、これだけ色々な想いや背景が込められたハンカチ。ただの「ハンカチ」だけではとうてい伝わらない。暮らしの情景の一部ではあるけれど、ちょっと特別な「ハンカチ」  クラシックな響きのハンカチーフは候補にはなっていた。ハンカチーフというものを調べてみたところ、中世ヨーロッパで発展し、日本にもたらされたのは明治時代とのこと。また、当時は「手巾=しゅきん/ハンケチ」と呼ばれていたことも分かった。  「ハンケチ」…心にひっかかる感じがして、さらに調べると芥川龍之介の小説に行き着いた。読んでみると…。  芥川龍之介の小説「手巾(ハンケチ)」には、明治維新によって急速に近代化・西洋化していく日本社会と、江戸時代からの古い慣習・価値観のあいだで揺れ動く心情が描かれており「ハンケチ」は和洋を仲立ちする物として、象徴的に描かれていた。  私たちの考えるイメージにぴっとはまっていく感じがした。  西洋発祥でありながら、現在の日本の暮らしの情景の一部。私たちの暮らしのなくてはならないもの。洋と和の文化・ものづくりを繋ぎ、橋渡す象徴として「ハンケチ」という名前になった。  そんな始まりの物語がありもう11年。まだまだ皆さんにお伝えできていなかったことも多いような気がして思い切ってまとめてみた。  またこれからも少しでもたくさんの人に使っていただけたらと思っている。 なにしろ、可愛くて、上品で、丈夫で、使い心地が良いので(笑)    48cm角の大判仕様なので、お弁当包みや小風呂敷としても人気。 パッと広げて敷き布にするだけで、テーブルの上が楽しいステージに。 9歳の子がおにぎりを食べるところ。お子さんのひざ元もスッポリ収まり、食事の時のナフキン代わりにも活躍します。 意外とファンが多いのが、若い男性のお客さん。「洗濯機に気にせず放り込んで洗ってるけど、2年くらい使ってもまったくヘタらないんです」 工房で工藤が6年近く使い込んだ私物。くったりと柔らかく馴染んでいるが、それでも縫製のホツレひとつなく毎日活躍中の一枚。

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ハンケチができるまで

ハンケチができるまで

特別な一枚ができるまで   ハンカチ という商品は難しい。「難しい」といっても、実は作る側にとっての話だ。  誰もが一枚は持っている「ハンカチ」。一枚の布の、四辺を縫ったもの。 数ある布製品の中でも、とびきりシンプルな物の一つだ。そして、だからこそ一見して違いが伝わりにくい製品でもある。     売り場で目に飛び込んでくる、様々な「色」や「デザイン」。おそらく多くの人が、ハンカチ を選ぶ基準にしている所だろう。でも生地の種類や品質は、もう少し意識を向けなければ分かりにくい。吸水性が良いかどうかも実際に使ってみないとわからない。店頭にたくさんのハンカチが並んでいても、その中で品質の良し悪しまで見分けてもらうことは、簡単ではない。     長年作り続けている製品なのに、実はずっと悩み続けてきた。「どうすればハンカチ の魅力が伝えられるか?」生地の品質、柄のデザイン、ハンドプリントに縫製の技術。48cm角の四角い布には、日本各地の優れた職人達の仕事が詰まっている。今まで一流のバイヤーさん達がその品質を高く評価してくれる一方で、僕自身がその魅力をうまく言葉にすることができずにいた。 今回、改めて本品堂の「ハンケチ 」について、言葉を重ねてみようと思った。本品堂のハンカチを支える素材と技術、そしてそこに関わる人々の想いを追いながら、製品が作られる背景をご紹介してみようと思う。様々な想いがこもり過ぎて、結果的に少し長い記事になってしまったけれど、読んでもらえると嬉しい。       人に教えたくなるような「布」   店頭でハンカチを見て、使われている生地の名前がパッと出てくる人は、よほどファッションが好きか、布に関わる仕事・勉強をしている人だろう。 でも普段、布の種類なんて気にしない人でも、実際に使うときには感覚的に違いを感じているはず。肌に直接触れるハンカチでは、生地のすべる感触や、吸水性の良さが身体にとっての「心地よさ」に直結する。自分の持ち物の中でも「気がつくといつも使っている、お気に入り」があると思うけれど、これは自分の「無意識の感覚」が選んだ一枚。頭で考えるのではなく、五感が「心地よさ」を感じ取り、その人にとっての「良いモノ」を選んでいるのだと思う。     実際に肌に触れて使ってもらえば、魅力を(文字通り)感じてもらえる事でも、お店の棚に並んだ状態でその違いを伝えることは難しい。同じコットン100%の生地でも、織りの種類や糸の太さで、生地の表情はさまざまに変わってくる。でも色鮮やかな商品がひしめく店頭で、(見た目には)小さな違いに目を向けてもらう事は容易ではなく、いつも僕たちを悩ませる。     生地の織りというのは不思議な世界だ。もともと直線である一本の「糸」を縦横に織りなすことで、平面の「布」を作り出す仕事。サラッとした生地、なめらかな光沢のある生地、ザックリした風合いのある生地。糸の種類・太さ・密度、そして織り方によって、様々な表情の生地が生み出されてゆく。   本品堂のハンケチは、デザインごとに何種類もの生地を使い分けている。柄のデザインと素材の最良の組み合わせ、そして生地ごとに異なる風合いの魅力を、感じて欲しいという考えからだ。美しい光沢を持つ「60サテン」、独特のハリとシャリ感が特徴の「タイプライタークロス」、空気を包むような透け感が美しい「長極細ローン」。それぞれ違った個性と、魅力を持っている。 【60サテン】 美しい光沢感を持つ、綾織の生地。本品堂でも多くの柄に使われている。60番手という標準的な太さの糸で織られた生地で、適度な厚みとボリューム感のある生地。しっかりとした吸水性を持つと同時に、エレガントな光沢とのバランス感が良く、使い勝手に優れる。     【80/100タイプライタークロス】 強めの捻(より)をかけた糸を、高密度の平織に仕上げた生地。独特のハリとシャリ感を持ち、高級なシャツ生地などに使われる。「格子行儀」に使われる「80/100タイプライタークロス」は、縦糸に80番手、横糸に100番手の細糸を使い、超高密度に織り上げた生地。「タイプライター」の名前は、もともと文字を打つタイプライター機械のインクリボンに使われた事に由来する。非常に丈夫な生地だが、極細番手で織られたこの生地は、サラリとした肌触りと同時に、上品な艶感も併せ持っている。     【ローン】安価なハンカチ用生地としても利用される平織りの生地だが、これは極細の100番手糸を高密度に織り上げた、特別なローン生地。透け感が美しく、空気をはらんだような軽さが特徴だが、光に当たると上品なツヤ感を見せるのは、良質な生地の証拠。        もちろん、商売の効率を考えれば、全て同じ種類で統一して仕入れる方が良いのに決まっている。でも、あえて非効率な製品作りを続けているのは、もう一つ「機屋(織元)さんの優れた仕事を紹介したい」という想いがあるからだ。     残念なことに、日本国内の織元(生地を織る工場)は、年々減り続けている。職人さんの高齢化や、安価な海外製品に押され廃業を迫られる工場も多い。そんな苦しい状況の中でも「国産の良い生地を届けたい」と今日も織機に向き合う職人さん達がいる。丁寧に織られた生地は、丈夫で、美しい。そこには織元さんの、布への愛と情熱がいっぱいに詰まっている。たかが一枚の布だけれど、布の中には僕たちの心を打つような仕事がある。そんな素敵な仕事がこの日本にあることを誇らしく思うし、その価値をみんなにも知って欲しい。   そう、とどのつまり、僕は「みんなに、知らせたい」のだと思う。 「ねえ、見て見て!スゴイのがあったよ!!」子供の頃、友達と遊んでいて珍しいモノを発見した時の気持ち。自分が見つけた素敵なものを、みんなと分かち合いたい−という気持ち。     おそらく、その想いは僕がキモノの「型紙」と出会って衝撃を受けた時から変わっていない。「自分が感動し、心揺さぶられたものを、人と共有したい。」それが原点となって、僕は20年前に本品堂をはじめた。  一見すると、どれも同じような白い布。でもそれぞれの生地には、職人の技術と熱意が、いっぱいに詰まっている。      無限の色を再現する    真っ白な生地=反物に柄をつけていく工程は、一般に「プリント」と呼ばれる。 用途や規模によって様々なプリント技法があるけれど、本品堂のハンケチを作っているのはシルクスクリーンの中でも「ハンドプリント」と呼ばれる技法。写真製版された版の上から「スキージ」と呼ばれるゴムベラで、職人がひと型ずつ染料を刷り込んでいくやり方だ。(ちなみに「シルクスクリーン」は直訳すると「絹の版」。技術としてはイギリスで発明されたものだが、その元になっているのは本品堂工房でも使っている、キモノ用の「型紙」。実は日本の伝統技法をヒントに発明された技法!)   
 この工程を担当してくれるのは、山形県鶴岡市にある「芳村捺染」の職人さんたち。(※1) 芳村捺染は、高級シルクスカーフのハンドプリントを中心に、高い技術で国内外ブランドの製品を手掛ける工場だ。随分前のことだけれど、仕事でお世話になっていた方から紹介いただいたのがご縁の始まりだ。丁度プリント加工をお願いできる工場を探していたところ、 「芳村さんだったら、ポンピンさんの仕事でも間違いないよ。」 モノづくりに対し要望の多い僕たちに半ばあきれながらも、ここなら大丈夫だろうーと紹介してくれたのだ。以来、気が付けば10年以上ずっとお世話になっていて、僕たち工房のモノづくりにとって欠かすことのできない協力工場の一つだ。     プリントに於いて大切な要素のひとつが「色」。 「デザインした図版を、意図した通りの色で再現する」言葉にすると当たり前のように思えるけれど、実はこれが簡単なことではない。同じ調合の染料を使っても、生地の織り・厚み・版の柄ゆきによって仕上がりの発色に大きな差が出てくる。つまり「狙った色=ゴール」にピタリと寄せるためには、素材や摺りの加減といった要素を考えながら、必要な色を逆算する必要がある。     本品堂のハンケチの色は「色帳=いろちょう」と呼ばれる、着物用の染色見本帳から再現しているものが多い。相方・工藤のお祖父ちゃんの代から使っている色帳には、シルク生地の色見本が貼り付けられており、色名も全て「海老茶」「納戸色」「松葉色」と日本の伝統色名が振られている。     「色見本を送るなら簡単そう」と思われるかもしれないが、実はこれも単純な話ではない。前述の通り、色帳に貼られているのは「シルク」の生地だが、ハンケチの素材は「綿=コットン」。素材が違えば使用する染料も異なるし、調合される助剤も全く違ってくる。何より、絹=シルクは光沢が強いため生地の発色に奥行きと彩度があり、それがシルク独特の美しい色合いの特徴ともなっている。     本品堂で使っているハンカチ の生地は、綿の中でも上質なため光沢感を持つものが多いが、それでもやっぱりシルクの輝きとは違う。コットンの特性を理解しながらも、シルクの色合いに近づけていく色合わせ。毎度、面倒な仕事をお願いしているなぁ…と思ってしまうが、職人さんは眉間にシワを寄せながらも黙々と色を調整してくれる。     工場には色の調合を数値化してくれるPC上のプログラムもあるのだけれど、ここで出てくる数値はあくまでだいたいの目安にしかならない。やはり生地やデザインにあわせた微妙な調整が必要で、最後はコンピューターより人間の出番となる。ベテランの調色担当さんの頭の中には過去の製作例の膨大なデータベースが詰まっていて、数種類の染料の組み合わせで、あらゆる色を再現してくれる。工房から送った生地見本とデザインを見ながら、染料の配合を微調整していく姿は独特の緊張感が漂っていて、僕たちは少し離れたところから、その作業を見守るばかりだ。     調色用のデータが決まると、別のスタッフの手によって「色糊=いろのり」が作られる。染料をプリントしやすいようゲル状の基材に混ぜたもので、正確な計測と、丁寧な攪拌が大切な工程だ。色糊が完成すると、数cm角の小さなスクリーン(版)で試し刷りを行う。これは「コマ摺り」などと呼ばれ、本番と同じ生地を使って、色糊の調合が狙い通りの色になっているかどうかを確認する。問題がなければ一発合格。微調整が必要な場合は「もう○○%グレーを増やして…」などと指示を伝え、再度色を調整してもらう。     「たかが色、されど色」 以前、どこかの画家が言っていた言葉だ。   どんな模様やデザインも、色と組み合わさることで初めて僕たちの眼に届き、心に響くものとなる。僅かな差が、人の心を大きく震わせる色の違いを生み出す。こうして、ようやくデザインを再現するための「色」が決定する。    
※1 とても残念なことに、芳村捺染さんは2021年春で工場を閉じられてしまいました。現在は同様の技術を持つ別の協力工場さんに製作をお願いしています。以前工場に取材に伺った際の温度感をそのままにお伝えしたかったため、この文章は当時の状況を元に書いてあります。 
        真っ白な布地に、色の花を咲かせる   幅115cm、長さ約50m。  ...

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