ポンピン堂の母体である江戸型染め屋「更銈=さらけい」は慶応三年、初代・新兵衛によって東京・浅草の地に創業されました。
「型染め」とは日本の伝統的な染色技法の一つで、和紙に模様を彫りぬいた「型紙」と、もち米から作られる「糊」を用いて文様を染め出す技法です。世界中の染色技法の中でも最も精緻な文様を染め出す技術とされています。
型染めの歴史は古く、その原型と呼べるものは奈良・正倉院の御物にも見ることができます。奈良・春日大社伝来の「義経の籠手」は現代と同じ技法で染められた最古の例とされており、12世紀頃には既に現在とほぼ同じ型染め技法が完成されていたことがうかがえます。
米作が盛んな国土から防染のための「糊」が生まれ、高品質な和紙漉きの技術に支えられて細かな模様の彫刻に耐える「型紙」が生まれました。
型染めは、日本の風土の必然が生み出した技法と言えます。
【製作の手順】
①柿渋で和紙を張り合わせた「渋紙」に模様を彫る
②長板に貼った生地に渋紙を合わせ、糊を置く(防染部分を作る)
③生地を板から剥がし、豆汁を引く
④刷毛で色を差す
⑤蒸しにかける
⑥水洗し糊を洗い落とす
⑦色止めし生地を整えて完成
画像の着物一反を染めるのに職人一人が付ききりで、約1ヶ月~1ヵ月半程の時間がかかります。
【画像の解説】
1.型付けの工程。青く見える部分は糊が生地に乗っている。使っている型紙は「繭と蛾」を描いた柄で江戸末期のもの。
2.型紙を彫る工程。下絵を転写した渋紙を、小刀で根気強く彫ってゆく。その後補強のための「紗」という絹の非常に薄い網状のネットを貼り完成。
3.もち糊。蒸したもち粉に、水・塩・米ぬか・石灰等を混ぜて作られる。青く見えるのは、型を付けた部分を見易くするため青花を混ぜてある。
4.洗い終えた型紙を透かして工房を見る。薄くネットのように見える部分が「紗」。貼り付ける接着剤には国産の本漆を使用する。
5 色挿しの工程。鹿毛の刷毛を使い、染料を優しく摺りこむように染めていく。
6. 反物が掛かっているのは「灌滴=かんてき」という道具。木製のローラーが付いた台で手元の色を染め終わると、生地を引っ張って回しながら作業を進めることができる。
7. 「水元=水洗」の工程。全ての色を挿し終えると、反物を蒸し器に入れて1時間~1時間半ほど蒸す。高温の蒸気で染料が反応し、生地に定着するとともに、本来の色に発色する。画像は「蒸し」工程の後、水洗にかけている様子。型をつけていたもち糊を十分ふやかしてから、丁寧に糊を洗ってゆく。
8. 糊が落ち、柄が浮かび上がった状態。この後、色止め処理をしてから脱水→乾燥→整理を経てようやく反物が完成する。