今回、現在進行している世の中のことが原因で、いくつかのイベントや仕事がキャンセルになった。
そこで、商品を見つめ直す時間をとることにした。
ポンピン堂のハンケチという製品群は、実は古くからありリピーターが非常に多い商品の一つ。
何かの折に少しずつ買い足してくださる方が多く、具体的な統計を出した訳ではなかったが、
よくよく調べてみると販売内容はご自宅用とギフトがほぼ半分半分。
ご感想などのコメントを掘り起こしてみると
「絵柄がかわいいから差し上げたらとても喜ばれて自分用も買うことにした」
「自分で使ってみたらとても使いごごちが良いので人にも上げたい」
とお客様が異口同音におっしゃっておられる。
ああ、そうだ。
わたし、そんな風に思いながら作り始めたんだっけ。ーと、はっと思い出した。
11年前に自分が欲しくなるハンケチの企画を始めた頃のことを思い出し、順を追って書いてある。
いつもは相方の「大野」が取材等で答えることが多いところを、もう一方の「工藤」視点で書いた。
少し長いですが、どうぞご覧ください。
いつもハンカチを探していた。
自分で使うものも、人に差し上げるものも。
特に人に差し上げることが多いハンカチ。
ハンカチをプレゼントするって 「これなら使ってもらえるし…無難だよね」と考えてしまうわたし。
でも人に差し上げるのに、無難って何か…
食べ物だったら、一度食べてみて美味しかったらお土産にする。
道具もお洋服も、使ってみて良かったら人に勧める。
であるのに、ハンカチにそういう感じっていうのはない。
お出かけの際も、お気に入りの一枚を一緒に連れだして
一方でハンカチは気軽な消耗品なんだよ。と思っても、みる。
何となく自分の中で「金額」「実用性」「ブランド」の三角形のバランス図を作り「これでいっか…」
でもそんな感覚が、うっすらと相手にすまないような。
本当は「これとてもかわいくて使い勝手がいいんだよ」と言いたいのに。
いや、そんな主張をしないまでも、ハンカチぐらい何かのお礼に、さらっと気軽に差し上げたいのに。
そういうのがないなと。
つまり自分でもデザインも使い心地も自分で気に入って使っているものが、極端に少ないと感じていた。
毎日使うものなのに。
フォーマルにも合わせらせる上質感だけど、コットンだからお手入れも簡単
だったら「作ってみようか?!だってうち布屋だし」
という発想に至ったのが出発点。
自分も使いたい!人にも差し上げたい!というものを作ろうじゃないの。
発想に至ったものの、実現するまでは長い長い企画との闘いとなった。
はじめはわたしは、デザイン2案、使用する生地は1種類だけを考えていた。
大野に絵をお願いしたところ、うんうんと長い間、脂汗をかいて悩みながら、なんと突如10柄ぐらい上がってきた。
デザインってPCでさらさら描きそうに思われますが、大野の場合はぜーんぶ手描き。
まる粒一つ。直線一本。羽一枚。どれをとってもすべて手描きの原稿があります。
作業を横でじっと見てるとたまに苦しくなる。
本人は描き進んでいるときはとっても楽しいみたいだが。
まずは思いつくアイデアの種を片っ端から描き出した後、形になりそうなものを選び、推敲を重ねていく
さてたくさんのデザインを上げてきたものの、ここで大量のボツが出るかと思いきやどれも可愛いと思った。
けれども「これはやわらかいイメージ」「これは粋なイメージ」「これは・・・」
と柄ごとにイメージの違いが多すぎて、生地を選ぶのに難航した。
ぎゅうぎゅうに悩んだある時
「生地をイメージに合わせて、それぞれ変えればいいんだ」と突然ひらめいた。
そっかー。と途端にソフトランディング。そっかー。生地をそれぞれ変えればいいんだ!
このぎゅうぎゅうと「甲乙つけがたし!」と頭を悩まして選んでいた白生地はもちろん、信頼のおける国産メーカーのものです。
この国産の生地の良さというのは、本当に織が丁寧でしっかりとしており「間違いがない」。
サテン生地の美しい光沢。お客様からも、たびたびシルクと間違われるほど上質な生地。
「60番サテン」「80番サテン」「タイプライタークロス」「ビエラ」
一番初めはこの4種類が出揃いました。
【サテン】は、シルクのような光沢。実際よくシルクと勘違いされるほど品が良い表情。
またふっくらとしていて吸水性もとても良い。
ちなみに60番は糸が少し太めで厚手、80番は糸が細いため、少し薄手でさらにしなやか。
【タイプライタークロス】は、昔タイプライターのインクリボンに使用されていたとても丈夫な生地。
糸のよりは細かく高密度に織られているため、生地の丈夫さに反してしなやかで手触りも大変良い。
表情はマットで、色を乗せてもしっとり落ち着いている。
【ビエラ】もともとはウールの織の一つで、極上の肌触りが特徴の上質な生地。
綿を使って同様の質感に織り上げたものがコットンビエラと呼ばれる。
ハンカチで使われることはほとんどなく、ナイトウエアなど肌に直接触れる製品に使われる高級生地。
手に持つと、しっとりとやさしく包まれるような感触。肌触りが抜群に良い。
捺染(ハンドプリント)工場の様子。上質なものづくりには、優れた職人との信頼関係が欠かせない
ハンドプリントをしてくれるところは、国内有数の、高級シルクスカーフを手掛ける工場に決まっていた。
私たちがイメージしている色が正確に出してもらえる。どうしてもそこだけは譲れない。
この工場さんへは、祖父の代から伝わるきものの色帳(見本帳)から色を指定することもよくある。
コットンのプリントをお願いするのに、シルクの色帳を出して「この色に」とお願いするのは難しいこと。
コットンとシルクでは、そもそも使用する染料が違うので、とても面倒なお願いなのだった…。
またこのハンカチの四方の縫いにもぜひ注目していただきたいのですが、三つ折りで直線に縫っているものではない。
ふわっと巻いて、とても細かいジグザグに縫ってある。この細かいジグザグを「千鳥縫い」という。
四方がやわらかくまとまる、高級スカーフの縫い方だ。
生地に無理なテンションをかけず優しく縫いこんでいく「千鳥縫い」。生地がつれにくく、上質な生地の質感を活かす縫い方です
ところでこの縫製工場さんは、もともと石巻でやられていて、津波で工場がのまれてしまった。
この時の私たちの衝撃は、言葉では言い表すことは出来ない。
だって報道が映す石巻の海岸の映像に、あるはずの工場が無い。
しかしなんとスタッフさんたちは生きておられて、でも皆さんそれぞれ違う避難所に行っていて、連絡が取れたのは半年以上たってからだった…
この時ほど胸をなでおろしたことはなかったと思う。
「やっぱりこの工場でお願いしたい!再開してほしい!」そう考えるのは私たちばかりではなく
取引先の要望に応えていただく形で、全国から専用中古ミシンを集めて、高台で仕事を再開してくださった。
ポンピン堂のハンケチをもう11年以上も。本当に美しく縫製してくださる。
ビエラ生地の「花小紋」をポケットチーフに。フォーマルな装いにも遊び心をこめて
最後に、「ハンケチ」というネーミングについて
「ハンカチじゃなくてハンケチ」「何で?」と思われた方もいらっしゃると思う。
実は製作する過程で、常に考えていたこと事。
伝統を表現していくポンピン堂があえてハンカチをやる意味だ。
いくら欲しいから作ると言っても、ブランドコンセプトに外れれば販売は難しい。
実際、この部分での話し合いがかなり長かったように思う。
しかし結果的に仕上がったサンプルを見渡した時
私は、私の染めた着物をイメージした時にこのハンケチなら携行することができる。
スーツにも合う。デニムにも合う。幼稚園バッグから出てきても良いというものが出来たと思った。
伝統的なところと現代的なところ、また未来へうまくリンクできるのでは、と強く感じることができた。
女性なら首元に巻いてネッカチーフとしても。襟元の日焼け隠しや、さりげないアクセントに。
でも、これだけ色々な想いや背景が込められたハンカチ。
ただの「ハンカチ」だけではとうてい伝わらない。
暮らしの情景の一部ではあるけれど、ちょっと特別な「ハンカチ」
クラシックな響きのハンカチーフは候補にはなっていた。
ハンカチーフというものを調べてみたところ、中世ヨーロッパで発展し、日本にもたらされたのは明治時代とのこと。
また、当時は「手巾=しゅきん/ハンケチ」と呼ばれていたことも分かった。
「ハンケチ」…心にひっかかる感じがして、さらに調べると芥川龍之介の小説に行き着いた。読んでみると…。
芥川龍之介の小説「手巾(ハンケチ)」には、
明治維新によって急速に近代化・西洋化していく日本社会と、
江戸時代からの古い慣習・価値観のあいだで揺れ動く心情が描かれており
「ハンケチ」は和洋を仲立ちする物として、象徴的に描かれていた。
私たちの考えるイメージにぴっとはまっていく感じがした。
西洋発祥でありながら、現在の日本の暮らしの情景の一部。
私たちの暮らしのなくてはならないもの。
洋と和の文化・ものづくりを繋ぎ、橋渡す象徴として
「ハンケチ」という名前になった。
そんな始まりの物語がありもう11年。
まだまだ皆さんにお伝えできていなかったことも多いような気がして思い切ってまとめてみた。
またこれからも少しでもたくさんの人に使っていただけたらと思っている。
なにしろ、可愛くて、上品で、丈夫で、使い心地が良いので(笑)
48cm角の大判仕様なので、お弁当包みや小風呂敷としても人気。
パッと広げて敷き布にするだけで、テーブルの上が楽しいステージに。
9歳の子がおにぎりを食べるところ。お子さんのひざ元もスッポリ収まり、食事の時のナフキン代わりにも活躍します。
意外とファンが多いのが、若い男性のお客さん。「洗濯機に気にせず放り込んで洗ってるけど、2年くらい使ってもまったくヘタらないんです」
工房で工藤が6年近く使い込んだ私物。くったりと柔らかく馴染んでいるが、それでも縫製のホツレひとつなく毎日活躍中の一枚。